こんにちは。京都エリアの営業担当Eです。
今回は、京都・大山崎にある聴竹居の見学レポートをお届けします!
聴竹居は建築家・藤井厚二が、1928年(昭和3年)に建てた自邸です。
今で言うところの環境工学の研究成果を活かし、
日本の気候風土と日本人の感性やライフスタイルに適合する住宅のあり方を追求。
普遍的な「日本の住宅」の理想形として完成させた住まいです。
見学して最も驚いたのが、その先進性。
自然の力を活かした快適な機能性、家族の暮らしやすさを追求した間取りや動線。
造作や家具、照明などの、簡素にして端整、モダンなデザインなど。
100年近く前の建築とは思えない “新しさ”に、すっかり魅了されました!
今回は、無数にある見どころの一部をご紹介していきます。
建築家 藤井厚二について
日本の気候風土や日本人の感性に適合した「日本人の理想の住まい」を追求し、大正から昭和初期にかけて活躍した研究者、
建築家。その功績は近年特に注目を集めています。
1888年(明治21年)、広島県福山市生まれ。
1913年(大正2年)、東京帝国大学工学科建築学科を卒業後、竹中工務店に入社。
約6年後に退社し、私費で欧米各国の住宅と設備を視察。
帰国後、1920年に創設された京都帝国大学建築学科に招かれて教鞭を取り、自らが確立した環境工学の研究に取り組む。
この頃、大山崎に約1万2000坪の土地を購入し、インフラを整備。
藤井は環境工学の知見を活かし、実験・実証のために5軒の住宅を建てている。
神戸・熊内の「第一回住宅」に続く、「第二回住宅」から「第五回住宅」の聴竹居までは大山崎に建てられた
(現存するのは聴竹居のみ)。
「第四回住宅」を除く4軒は、家族とともに実際に住み、日本の風土に適した住宅のあり方を追求。
集大成である聴竹居は、「日本の理想の住宅」と評されている。
聴竹居のある大山崎の風景。 “天下分け目の戦い”で知られる天王山が見えています。
こちらは聴竹居本屋の縁側からの眺め。石清水八幡宮が鎮座する男山を望みます。
現在は木々が茂っていますが、建築当時は桂川・宇治川・木津川が合流する眺めが見られたのだとか。
広い空の下、山々と川の流れが織りなす風景は、おおらかな自然美に満ちています。
聴竹居の概要と見学について
聴竹居は木造平屋で、家族と暮らした「本屋」、私的な空間である書斎としての「閑室」、
茶室の「下閑室」の三棟で構成されています。
今回見学したのは一般公開による本屋と閑室。特別公開時には下閑室も見学できます。
【評価】
・1999年に日本のモダニズム建築を代表するとしてdocomomo(※)最初の20選に選定
・2017年には建築家が昭和時代に建てた住宅として、初めて国の重要文化財に指定
・同年、日本イコモス国内委員会による日本の20世紀遺産20選にも選出
※docomomo=ドコモモ(Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of the Modern Movement)は、
モダン・ムーブメントにかかわる建物と環境形成の記録調査および保存のための国際組織
【運営】
2008年に地元の有志の方々による任意団体の聴竹居倶楽部が発足。
2016年より株式会社竹中工務店が所有。
日常維持管理、公開を担うのは一般社団法人 聴竹居倶楽部。
改修のために見学が一時中止されていましたが、2023年9月から全館公開され、
建築当時の美しい状態で見学できるようになっています。
■住所
京都府乙訓郡大山崎町大山崎谷田31
■交通
・JR「山崎」駅から徒歩約7分
・阪急「大山崎」駅から徒歩約7分
・駐車場なし
【一般公開について】
■見学時間・定休日
事前予約制(公式サイトの申込フォームから)
日曜・水曜
【1】9:30~11:00
【2】11:15~12:45
【3】13:00~14:30
【4】14:45~16:15
お盆・年末年始は休み
■見学料
大人 1,500円、学生・児童 1,000円
大学院生・専門学校生は学生料金(1,000円)
【特別公開について】
月1回土曜日に下閑室(茶室)を含めた見学日あり。
詳細は公式サイトよりご確認ください。
■電話番号
075-956-0030
(聴竹居倶楽部 事務局)
9時~17時
休館日:月曜日
*電話での予約は原則不可
見学の際は公式サイトで注意事項などをご確認ください。
>>公式サイトはこちらから
http://www.chochikukyo.com/index.html
パッシブデザイン住宅の先駆け
パッシブデザインとは、地域の気候風土を生かし、自然の力を取り入れて省エネルギーで快適な暮らしを叶える設計のこと。
近年、地球温暖化対策として注目されており、国の政策として進められている
「環境共生住宅」の実現に欠かせない設計手法です。
聴竹居を見学して最も驚いたことが、約100年近くも前の設計でありながら、
パッシブな建築計画が非常に高い次元で実現されている点です。
しかも、伝統的な日本家屋に受け継がれてきた知恵を進化させ、椅子式の洋のライフスタイルと見事に融合させているんです! では、その一部をご紹介していきましょう。
●風が通り抜ける一屋一室
藤井厚二の住宅設計における考え方の一つ、「一屋一室」。
一つの屋根の下は、大きな一つの部屋のような造りにすることで、
通風を確保するという考え方で、特に夏の暑さをしのぐことを重視しています。
聴竹居に入ると、まず居室があり各室が隣接。
それぞれの部屋は独立しつつ、扉を開けると連続した空間となり、風が通り抜けます。
●縁側は庇の角度で太陽光を制御、暑さの緩衝ゾーンにも
美しい眺めが広がる南側の縁側。
窓の外側の庇を長くすることで夏の直射日光を防ぎ、
ゆるやかな傾斜によって冬の日差しを最大限に取り込む計算がされています。
また、その庇が見えないよう上部はすりガラスになっていて、パノラマの絶景が強調されています。
落葉するもみじなどの植栽も、夏と冬で日差しをコントロールする役割を担っています。
冬はこの縁側でぽかぽかと暖房いらず。
夏は窓・地窓から風を取り込めるほか、居室にダイレクトに熱が伝わるのを防ぐ緩衝ゾーンともなっています。
●外気を取り入れるクールチューブ
居室の一角にある三畳の小上がりスペースはくつろいだり、腰かけたり、
何かものを広げるのにも便利。
現在の住宅の間取りにも取り入れられていますが、当時としては画期的だったのではないでしょうか。
居室の椅子に座った人と目線が合うように計算されており、ここにも新しさを感じます。
でも、それだけじゃないんです!
この段差部分を開けるとなんと導気口が!
敷地内の離れた場所にある外気の取り入れ口とつながっています。
西側の風通しのよい位置から送られてくる新鮮で涼しい空気が、夏の暑さをしのぎやすくしてくれています。
●室内の空気を排出する天井換気口
一方こちらは縁側の天井の排気口。
室内の温まった空気を天井裏から外へと逃がすことで、空気の循環を促します。
クールチューブ同様、開け閉めできるので季節により調節可能。
デザイン的にも周りの網代天井とマッチして素敵ですよね。
また、聴竹居の壁や天井には、和紙が5~6重に貼り重ねられています。
これは、和紙が持つ温度・湿度を調節する機能を活かしたもので、その風合いもやわらかな雰囲気をもたらしています。
居室を中心に各室がゆるやかにつながる間取り
家を建てる時に皆さんがまず考えるのが、間取りではないでしょうか。
伝統的な日本家屋では大きな空間を襖などで田の字に仕切ったような造りが多いですね。
一方、西洋的な住宅は一般的に各部屋が独立しています。
聴竹居は、中央の居室の周りに各部屋があり、ゆるやかにつながっています。
いわばリビング中心の間取りで、家族が行き交い、集える動線が実現されているわけです。
時には親密に、時には適度な距離を保ちつつ、お互いの存在を感じ合える。
当時としては、とても新しいプランニングだったのではないでしょうか。
●居室と連続しつつ、一つの部屋のような食事室
居室と食事室の間は曲線の間仕切りが設けられています。
扉はないけれど、床が少し高くなっていることもあり、独立したスペースにこもるような感覚が。
家族だけの温かで親密な空間になっています。
●光あふれる縁側は、まるでセカンドリビング!
先ほども紹介した縁側は、幅2m20cm、長さ6mの広々空間。
もう一つのリビングといった印象でした!
居室にいる家族と程よい距離感で、春夏秋冬、大人も子どもも思い思いの過ごし方ができますね。
ちなみに、奥のコーナーの部分に注目。
角に柱がなく、ごく細い木の角材に対して窓ガラスがはめ込まれています。
視界を妨げない工夫とこだわりが伺えます。
照明も藤井のデザインによるもの。
また、窓ガラスも当時これだけワイドでクリアなものはめずらしかったのだとか。
ガイドさんが丁寧に説明してくださるのですが、もうこの縁側だけでも、全体の工法、細部の納め方、デザイン面など
鑑賞ポイントが無数にありました!
●居室の一角、縁側に向けて設けられた読書室
個人的に一番うらやましかったのがこの読書室です!
ふたりの娘さんのために作られたもので、縁側越しに外の眺めを楽しみながら勉強ができます。
右側に大人用のデスクがあるのもいいですね。
居室の一角にあるので、家族の存在を身近に感じながら、コンパクトな空間で集中もできる。
今、「リビングで勉強するのが教育によい」という考え方が浸透しつつありますが、その先駆けではないでしょうか。
しかも、机や棚・引き出しなどもすべて作り付けで、愛情が伝わってきます。
思わず、「こんな家に生まれたかったなぁ」なんて(笑)。
学校関係などの荷物もすべて収まりますし、収納面でも秀逸だと思いました。
●玄関に近く、居室と独立させて使える客室
玄関を入って左側にある客室。
玄関右側には客用トイレがあり、来客の応対が玄関回りで完結します。
引き違い戸を開ければ居室と一体化するので、家族と交流でき、臨機応変に使うことができます。
和と洋、伝統とモダン、機能性と意匠性の融合
藤井厚二は環境工学の研究者であり、それを住宅に具現化する建築家であるとともに、優れたデザイナーでもありました。
日本の伝統的な美意識と欧米視察で吸収した洋の機能性を融合し、日本の住宅の新しいあるべき姿を追求した聴竹居。
自らのデザインによる作り付けの家具が非常に多いのも特徴で、暮らし方そのものを細部にいたるまでデザインしていたことが伺えます。 今の住宅に取り入れたい、ポイントが随所にあふれていましたよ。
●食事室の入口には美しい弧を描くアーチが
1/4円の扇型が組み合わさった、食事室入口のアーチ。
写真では鋭角に写っていますが、正面から見ると美しい半円型に。
視界も広く確保でき、間仕切りとしても機能します。 何より、このアーチをくぐって入っていくと、
「美味しくて楽しいひとときが待っている!」と思わせる華やぎを感じました。
●書院造りの違い棚を思わせる飾り棚
アーチの横に作りつけられた飾り棚は、居室における床の間のような役割を果たしています。
違い棚であることで、立体感やリズム感をもたらしているように感じます。
引き出しが付いているのも便利!
その上には建築家マッキントッシュのデザインを模した時計が。
さらにその上の白い小さな扉の中には、神棚があります!
“見せない”こともデザインの一環なのでしょうね。
●仏壇が収められた、小上がりの三角形の棚
“見せない”という点では、小上がりに設けられた棚にも注目。
全体が床の間のようになっているのですが、その一部がこちらです。
開けるとなんと仏壇になっているんです。
しかも、西方浄土、つまり真西に向かって拝めるよう、斜めに振っているのだとか!
居室中央に向いているので、ご先祖様が見守ってくれているような、そして、団らんに参加しているような、
そんな優しい印象もありました。
●椅子とテーブルの客室にしつらえられた床の間
客室にも床の間があります。
窓際のベンチや椅子に座った時の高さに合わせて、少し高くしつらえられています。
客室らしくたっぶりと広さのある床の間が、板張りで椅子式の部屋に違和感なくマッチしています。
照明、網代天井などデザイン的要素が満載なのですが、椅子にも注目を。
和服姿でも座りやすいよう、座面を縦に長く、ひじ掛けは短く作られています。
帯や袖を気にせず座れるわけですね。
日本人は和服が体形にあうと藤井は考え、藤井の家族も大人は和服で過ごしていました。
そのため、和服にあわせた椅子を考案したわけです。
●オール電化で機能的かつ清潔な調理室
食事室と隣り合わせの調理室は、白で統一された明るく清潔感のある空間です。
驚くのが、電気コンロと海外製の冷蔵庫のあるオール電化だということ!
ダストシュートもありましたよ。
当時はまだ土間で炊事を行っていた家もあったことを考えると、本当に画期的。
また、写真右側の食器棚は食事室側からも取り出すことができ、
その下の引き戸は料理を配膳するためのハッチになっています!
食事室側から見た食器棚とハッチ。 こちらは家具としてデザインされ、室内の雰囲気になじんでいます。
より私的な空間としての閑室
続いて、書斎として使用されていた離れの閑室を見学しました。
さわがしい日常を離れ、ひとり静かにさまざまな考えを巡らせ、深めた空間だったようです。
本屋とあわせて閑室、下閑室を含めた三棟によって、日本の住宅の素晴らしさを世界に発信した聴竹居。
より私的な空間としての閑室は、家族と過ごす本屋に比べると、より凝った趣味性の高い数寄屋風の造りになっていました。
勾配のついた網代張りの天井に、和紙の照明が映えます。
木々の緑を楽しめる窓際のベンチや、床の間の一部のようなライティングデスク。
一つひとつが素敵でため息が出ます!
椅子とテーブルの下段の間の奥に、三畳の上段の間。
和紙(奉書紙)を張った白い壁が簡素で清々しいですね。
ここでは、来客をもてなし、食事を共にすることもあったのだとか。
桂離宮を世界に広めたことでも知られる、建築家ブルーノ・タウトもこの閑室を訪れています。
離れを建てるのは難しくても、住まいのどこかに「静かな自分だけの場所」を持つことは、現代人にとっても究極の理想ですね。
参考文献 : 松隈 章(2015). 『聴竹居 藤井厚二の木造モダニズム建築』.コロナ・ブックス.
まとめ
いかがでしたか?
家族の暮らしを中心に考え抜かれた、必要にして充分な住まい。
機能と美意識の両面から、この「必要」と「充分」の中身を深く、深く掘り下げた究極の答えがあるように感じました。
そして、住まいのあり方によって、暮らしが変わり、人生すらも変わる。
そのことを改めて意識できた見学でもありました。
皆さまもぜひ、大山崎の聴竹居へ足を運んでみてください。
夏の過ごしやすさを体験するもよし。秋の紅葉の時季もおすすめですよ。
※2024年6月24日時点の情報です。詳しくは各公式ホームページをご覧ください。